前回、「体内の鉄分」のお財布であるフェリチンについて書きました。フェリチンというタンパク質でできたお財布に、鉄分を蓄え(最大で4500個/1フェリチン)、必要な時に出して使うというものでした。
もう少しフェリチンについて。
そもそもフェリチンというタンパク質にしまう理由は、鉄分の危険性にあります。鉄は反応性が高く、フリーな状態で流れていると酸化ストレスを引き起こすんです。
さらに、フリーで流れていると、体内にいる細菌にも使われます。良い菌なら良いですが、悪い菌も使うんですね。特に、結核菌、マラリア、リステリア、大腸菌やサルモネラなどの食中毒菌などは、感染時に鉄分を投与すると悪化することもわかっています。つまり血中にフリーな鉄がたくさんあると、いくつかの感染症は悪化するということになります。ここに挙がっていないものでも起きているかもしれません。
ここ、少し詳しく仕組みを解説しておきます。
体が「今は菌と戦っている!」と判断すると、「鉄を外に出すのは危険だ」とブレーキをかけます。そのブレーキ役が、肝臓から出るヘプシジンというホルモンです。
このヘプシジンが増えると、腸管からの鉄吸収を減らしたり、鉄を細胞内に閉じ込めたりします。同時にフェリチンが増え、お財布にしまいます。もう一つ、血中で鉄を運ぶタンパク質があります。これも増えて、フリーな鉄分を減らすように持ち込みます。
感染が起きると、あの手この手でフリーな鉄を減らそうとするわけです。それによって菌が増えにくいようにするのです。
こういうような、感染に伴って何かの栄養素が仕舞われる体内の仕組みのことを「栄養免疫」と呼んでいます。
菌に栄養を使われて増殖されないようにするために、仕舞い込む。
鉄の場合はフェリチンというお財布が足りないと、貧血になりやすいだけでなく、感染症も悪化しやすくなる、というわけです。
フェリチンを増やすためには、
■吸収されやすい鉄 ヘム鉄を摂る
■吸収を妨げるものを控える
ことが大事です。
吸収を妨げるものの例としては、
・フィチン酸(玄米、豆類)
・ポリフェノール(茶、コーヒー)
・カルシウム
が挙げられます。また、胃酸が少ないのも鉄分の吸収を下げる要因の一つです。
そしてここからもう一つ意識しておきたいのは、感染症が慢性化していると、貧血症状が起きる可能性があるということです。
慢性化した感染症というのは、例えば、副鼻腔炎、歯周病、慢性胃炎・腸炎、腸内細菌由来のLPSの慢性流入などがあります。
これらの場合、ヘプシジンが慢性的にたくさん出続け、フェロポルチンという輸送タンパクが減り、細胞内に鉄が閉じ込められたままになって、体内に鉄はあるのに使える鉄が不足→貧血症状となります。
これは「お金は銀行にあるのに、キャッシュカードが使えない状態」に似ています。
フェリチン(貯金)はある。
でも必要な場所に引き出せない。
だから、検査では足りていそうなのに、体はしんどい。
このパターンだと、血液検査でフェリチンの値は高めだったりします。
長引く貧血、鉄分摂ってるのになぜ?
という場合、慢性化した感染症の存在を疑ってみるのもありかもしれません。
そして、もう一つの落とし穴があります。
慢性炎症です。
これについて3つ目にあらためて解説します。
